Zhao, Yong. World class learners: Educating creative and entrepreneurial students. Corwin Press, 2012.
より
上の図は、濃い青のグラフがPISAという世界的な学力テストの数学の点数。薄い青がグローバルアントレプレナーシップモニター(2011)という世界的な起業調査で調査された、総合起業活動指数TEA (Total Entrepreneurial Activity)。それらを比較したものである。TEAは、スコアが高いほど起業活動が活発であることを示している。
図から衝撃的な事実が判明している。学力が高いほど、起業意欲がそがれているのだ。実は数学だけでなく、PISAで調査された学科、数学、読解、科学の全てにおいて、点数が高いほど、起業活動に逆の効果をもたらしているだろうということが判明した。これは何を意味しているのか。
上の表は「創造性において天才的」だとされる割合についての調査だ。3~5歳では98%の被験者が天才的レベルにあるとされている。しかし、5年後は32%に減少、さらに5年後には10%に減少(サンプル数1700人。同一集団に対する3回のテスト)。この調査とは違う集団だが、20万人以上の大人に同じテストをすると、天才的レベルの創造性を示すのはわずか2%にすぎなかった。
著者は、現代の世界において、優れた教育というものは「科目の点数をあげる教育」であるとされていると説く。それ以外の教育は全て劣ったものとみなされている。実際、「レベルが低い教育」が施されてきたアメリカでも「点数を上げる教育」を行うため、にさまざまな施策がなされてきた。その結果、2010年7月のニュースウィーク誌に「創造性の危機」として取り上げられたように、創造性が極端に低下してきている。(多くのアイデアを出す能力、ユニークなアイデアを出す能力、創造的パーソナリティー、アイデアを苦心して作り上げる能力、思考をまとめ上げる能力、知的好奇心とオープンマインド。以上6つの創造的尺度が全て低下している。)「学校に通えば通うほど、子供は好奇心をなくす」。Wagner(2008)はそう結論付ける。
著者は、こうした尺度が低下するのはすべて「押し付けの教育」のせいだとしている。自分自身が好きなもの、やりたいものを開拓するのではなく、誰かが作った基準に従わせるための教育。それが創造性や起業家精神を殺している。著者は、これまでの教育は「職を見つけること」を主眼としており、「職を創り出す」責任を放棄していたと語る。
余談だが、これに対してフィンランドの教育というものは異彩を放っている。高校の最後まで、標準化されたテストが行われないのだ。フィンランドの教育の中心となっているものは、テストで高得点を獲得させるのではなく、それぞれの子供に考えさせ、活動させ、創造させることにある。フィンランドでは「競争」ではなく、「協力」を教育の主眼に据えている。強いられた卓越性ではなく、自らの課題を開拓すること。争いではなく協力を生む道はそこにある。
結論として著者は、「モノをつくることに根ざした教育」を提言している。地域の新聞をつくったり、お店をしてみたり。なんでもいい。プロジェクトを成功させることで得られるものが沢山あるというものだ(Project-Based Learning)。市場に自らのアイデアを問いかけ、そこから得られる生き抜くための知識。それこそ、独立自尊へと導く真の教育なのかもしれない。